MNGプロジェクト−コピーレフトに基づくデジタル芸術Webデータベース構築
久 原 泰 雄
メディアアート表現学科
MNG Project - Design of Web Database for Digital Art Based
on Copyleft
KUHARA
Yasuo
Department of Media Art
1.はじめに
ダウンサイジングによる制作環境の低価格化や高性能化が進み,より多くの人がコンテンツ作成者になる機会が開かれた。さらにデジタル技術やネットワークの発達によって,コンテンツの複製,改変,流通,発信,共有が容易になり,創作活動の生産性に大きく寄与してきた。しかし,これらの長所が著作権の問題を生み,著作物の自由な利用や共有を阻害する結果になっている。
一方で,著作物の自由に関する様々な活動も行なわれている。代表的なものがGNUプロジェクト[1])によるコピーレフトの概念であり,Linuxをはじめとする多くのコンピュータ・ソフトウェアを開発し,その使用,複製,改変,頒布の自由を保障することで大きな成果をあげた。GNUプロジェクトは,著作物の自由に関する概念を喚起し,他の多くのプロジェクトの発端となった。
本論文では,著作権にまつわる問題点と著作物の自由に対する活動について述べ,さらに,デジタル芸術作品の使用,複製,改変,頒布を目的としたWebデータベースを構築するMNGプロジェクトについて説明する。MNGでは,デジタル芸術作品に対してコピーレフトの概念を導入し,著作物としての使用に関するライセンスを明確にし,自由を保障したコンテンツを供給する。また,芸術コンテンツを積極的に発信,共有する場をインターネット上に提供し,創作活動の連鎖を生み出すことを目的としている。
2.著作権の問題点
紙というメディアに著作物を大量に複製する技術は,印刷によって可能となり,それにともなって著作権が制定された。これは著作者の権利であり,出版業者は,著作者から著作物を複製する権利(コピーライト)を得てはじめて出版することができた。この時点で,著作権は出版業界だけを制限する制度であり,読者に著作物の使用を制限することはなかった。また通常の読者は著作物を複製するためには,紙に筆写するしかなく,このことで著作権の違反を問われることはなかった。
その後,著作物のメディアとしてデジタル技術とネットワークが登場した。デジタル技術は,書籍,プログラム,音楽,画像,映像といった様々な情報を扱い,複製や改変を容易にした。一方,ネットワークは多くの利用者に,著作物の流通,発信,共有の機会を与えた。
しかし,デジタル技術とネットワークの利便性が著作権制度と衝突し,最近では著作権の過剰な行使によって複雑な問題が生じてきた。その背景には著作権制度がコンテンツ配給業者に有利な方向に強化されていることが指摘され,結果として,利用者側のコンテンツの自由な共用が妨げられている。
例えば,キャラクター商品ビジネスは著作権使用料によって大きな利益を生む。ミッキーマウス[2])の最初の作品「蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)」は1928年にアメリカで公開された。当時アメリカの著作権の保護期間は56年間で,1984年に著作権がフリーになるはずであった。しかし1976年に著作権法は改正され,保護期間は75年間になり,ミッキーマウスは2003年まで保護されることになった。さらに1998年に著作権延長法が制定され,保護期間は95年間になり,ミッキーマウスの保護は2023年まで延長された。このためアメリカの著作権保護期間はミッキーマウスの著作権を延長するためにあるとの反発を受けることも多い。
また,自主制作の映画を撮影する際に,映像内に他者の著作物が入っていないか,あるいはBGMに使う音楽の著作権の所有者は誰かなど制作における不自由な状況が現実になっている。特に複製,改変,再利用が容易なデジタル技術とそれを流通,共有,発信させるインターネットが一般化してからは,問題が表面化し,著作権者の立場からコンテンツの流通を制限するための送信可能化権や公衆送信権のような新しい権利も設定された。
著作物が安易に複製,配布されることによって配給業者が経済的損失を被ることは事実である。しかし,優れた芸術や科学技術は過去のコンテンツの共有がなければ発展することはない。著作物の利用が制限されるにつれ,本来なら多くの人に見聞され,人類の知的発展に寄与するはずの著作物の自由な流通が妨げられ,新たな創作の可能性が阻害されるのは残念なことである。Richard Stallmanは,現在の著作権制度がいかに科学研究の発展の妨げになっているかを指摘している[3]) [4])。
3.著作物の自由に関する概念
著作権フリーとなったコンテンツを提供する活動が様々な形で行なわれている。例えば,科学研究の成果をインターネット上で自由に利用できるようにしたThe Public Library of Science (PLoS)[5])があげられる。学術論文など内容的に改変しないという条件の下,学術的な業績を保護する一方で,その成果を容易に利用することが可能である。また,インターネットの電子図書館「青空文庫」[6])があげられる。著作権の消滅した文学作品と著作者から自由に使用する許可を得た作品を集めており,自由にコンテンツを使用することができる。
この点で先駆的な存在であるRichard Stallmanは,GNUプロジェクトにおいて,著作物の利用,複製,改変,頒布の自由を保護する重要な概念を提唱している。
3−1 コピーレフト
コピーレフト( Copyleft )はGNUプロジェクトにおいてRichard Stallmanが提唱した概念で,ソフトウェアの自由を保障するための手法である。コピーレフトが主張されるとは,そのソフトウェアを再頒布する人は変更の有無を問わず,どの使用者にも複製や改変する自由を与えなければならず,さらに制限を追加することも許さないということである。
これと対照的にパブリックドメインは厳密に著作権が放棄されていることを意味する法律用語であり,ソフトウェアをパブリックドメインに置くと,ある人がソフトウェアを改変して独占的な製品として配布することが可能である。一方,コピーレフトではソフトウェアをパブリックドメインに置いて著作権を放棄するのではなく,ソフトウェアの独占を防ぐために著作権を主張している。
コピーレフトが主張されたソフトウェアの頒布条件とは,「当該プログラムのソースコードおよびそれから派生したいかなるプログラムに対しても,使用,変更,そして再頒布の権利を与える,ただしこの配布条件を変更しない限り」である。
3−2 オープンソース
プログラムを修正,改変する際に必要な概念がオープンソース[7])である。プログラマはプログラミング言語でソースコードを記述する。一方,コンピュータが処理できるのはソースコードをコンパイルした2進数の機械語からなる実行モジュールである。
図1の左図は,"Hello World!"という文字列を表示するプログラムをC言語で記述したソースコードであり,右図はそれを2進数の機械語にコンパイルした実行モジュールである。ソースコードは人間のプログラマには容易に理解できるが,コンピュータには処理できない。逆に2進数の実行モジュールはコンピュータが処理できるが,人間には理解が困難である。この二者の橋渡しをするコンパイラはソースコードを機械語に翻訳する。機械語はCPUによって異なるので,プログラムを実行するコンピュータ環境ごとに,実行モジュールを作成する必要がある。
さて,プログラムを実行するには,実行モジュールが必要であるが,ソースコードは不要である。しかしプログラムを改変するには,ソースコードを解析し,修正しなければならない。ソースコードの修正後,再びコンパイルして新しい実行モジュールを作成して,ソフトウェアの改変が可能になる。したがって,ソフトウェアを自由に改変するために,ソースコードの公開を保障することが必要であり,これがオープンソースの概念である。
3−3 様々なフリーソフトウェアのライセンス
GNUにおけるフリーソフトウェアとは,コピーレフトとオープンソースが特徴となっており,すべての人に対して利用,複製,改変,頒布する許可が与えられており,ソースコードの公開が必須とされる。
これと対照的に,独占的ソフトウェアでは,その利用,再頒布,改変には,厳しい制限が課せられており,ほとんどの場合ソースコードは公開されない。
一方,商用ソフトウェアは利潤を得るために開発されたソフトウェアのことであり,「商用」と「独占的」とは同じ意味ではない。フリーソフトウェアの「フリー」とは「無料」ではなく,「自由」を意味している。コピーレフトでは,自由が問題となるのであって,価格は問題ではない。たいていの商用ソフトウェアは独占的だが,商用のフリーソフトウェアは存在する。例えば,GNU AdaはGNUライセンスの下で配布されるフリーソフトウェアであり,かつGNU Adaの開発者はサポート契約を販売することで利益を得ている。
オープンソースである数々のライセンスの中で,再配布におけるライセンスにコピーレフトを適用する方法に違いが見られる。GNUではコピーレフトを主張するが,BSD (Berkeley Software Distribution)のライセンスでは修正したソースコードを独自ライセンスで頒布することが可能である。
(1)コピーレフトを主張したフリーソフトウェア
代表的なライセンスがGNU General Public License[8])であり,一般的にGPLと呼ばれている。GPLでは,修正版のソースコードを公開する時には,それもGPLにしなければならない。また,GPLのソフトウェアを組込んだソフトウェアも,GPLにする必要がある。
GPLに関連して,GNU Lesser General Public License(略してLGPL)[9])というライセンスがある。これは,ソースコードの部品集であるライブラリを公開するライセンスとして利用されている。ライブラリを他のプログラムに組み込むだけなら,再頒布の条件にコピーレフトを義務付けてはいない。したがって,コピーレフトという観点からは強力なライセンスではない。
(2)コピーレフトを主張しないフリーソフトウェア
代表的なライセンスがFreeBSD[10])である。コピーレフトが主張されないため,原版の著作者名を表示しさえすれば,複製物や改変物の再配布にあたって制限を追加することが可能である。すなわち,元のプログラムがフリーでも複製物や改変物はフリーでなく,独占的なソフトウェア製品として販売することができる。
例えば,X Window Systemは非コピーレフトのフリーソフトウェアとして公開されているため,フリーの製品もあれば,企業が特定の環境で動作するように改変し,独自のフリーではないライセンスで販売されている製品もある。
代表的なオープンソース・ソフトウェアのライセンスを以下の表に挙げる。GPLとBSDを基本として,ライセンスごとに,コピーレフトの適用が個々に違っているが,オープンソースであることは共通している。
ソフトウェア名 |
種別 |
ライセンス |
Linux |
オペレーティングシステム |
GPL |
FreeBSD |
オペレーティングシステム |
FreeBSD |
Mozilla |
Webブラウザ |
|
OpenOffice.org[13]) |
事務用アプリケーション |
LGPL,
SISSL[14]) |
Apache |
Webサーバ |
Apache
license[15]) |
Perl |
スクリプト言語 |
Artistic
license[16]) |
PHP |
Webスクリプト言語 |
PHP
license[17]) |
MySQL[18]) |
データベース管理システム |
GPL |
3−4 芸術作品のフリー・ライセンスの例
(1)クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)[19])
http://creativecommons.org/
スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授によって2001年に設立されたクリエイティブ・コモンズは,自由に利用可能なコンテンツの共有地(Commons)を作り出すことを目的としている[20])。著作者と利用者の間にCCPL (Creative Commons Public License)と呼ばれる4つのライセンス−帰属表示(Attribution),非商用利用(Non-commercial),改変の禁止(No Derivative Works),共有条件の継承(Share Alike)−を設定し,これらの組み合わせによって権利範囲を明示することを提案している。
(2)OCM(OpenCreation Movement)
http://www.opencreation.org/
著作者が作品の使用方針を自分で決め,宣言する仕組みを作成している日本の任意団体であり,全員ボランティアのメンバーにより構成されている。多くの人に作品を視聴してもらうため作品の利用を制限することではなく開放することを目的としている。具体的には,OCPL(OpenCreation Public Licenses)というライセンスを作成し,コンテンツにOCPLマークを表示することで,ライセンスの宣言を実現することを目指している。サイト内に音楽クリエイターや演奏家の意識調査のアンケート結果が報告されている。
(3)文化庁の自由利用マーク
http://www.bunka.go.jp/jiyuriyo/
著作者が著作物を他人に自由に使ってもらってよいと考える場合に,その意思を表示するためのマークで,「プリントアウト・コピー・無料配布OKマーク」,「障害者のための非営利目的利用OKマーク」,「学校教育のための非営利目的利用OKマーク」の3種類がある。ただし,文化庁によると,動画や音楽の場合,他人の権利が関係する場合が多いので,マークを付けることを推奨していないため,利用価値は少ない。
(4)その他
その他,様々な取り組みを以下に挙げる。
・The Free Music Philosophy
http://www.ram.org/ramblings/philosophy/fmp.html
・Free Art license
http://artlibre.org/licence.php/lalgb.html
・(d)マークの提唱−著作権に代わる「デジタル創作権」の構想−
http://www.glocom.ac.jp/users/hayashi/991018.pdf
・プロメテウス・キャンペーン
http://orion.mt.tama.hosei.ac.jp/hideaki/prometeu.htm
・フリー百科事典ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/
4.MNGプロジェクトの概要
MNGプロジェクトとは,GNUプロジェクトで提唱されたコピーレフトの概念を芸術作品に適用し,デジタル技術とインターネットの長所を活かした制作を助けるWebデータベースシステムを構築するプロジェクトである。著作権の過剰な行使によって芸術作品の作成,流通,共有に弊害が生じている現状を克服し,デジタル技術とネットワークを最大限に有効利用したコピーレフトな環境でコンテンツの利用の自由を保障し,その結果,芸術活動を活性化することを目的としている。なお,MNGは," MNG's Not GNU "の再帰的頭字語で,「む・ん・ぐ」と発音する。” M ” は ” Media art ” の頭文字でもある。
現段階でのプロジェクトメンバーは,総括:久原泰雄,音楽:黒沢大佑,システム:穴山大輔の3名である。いずれも東京工芸大学芸術学部メディアアート表現学科の所属である。
4−1 MNGのコンテンツ
現時点では,音楽作品を中心にコンテンツを準備している。Napster[21])やGnutella[22])といったP2Pの音楽コンテンツ交換ソフトウェアは多くの支持を得たが,著作権上の問題が生じたことはよく知られている。しかし,このことは音楽コンテンツの配給メディアとして,ネットワークに対する需要が従来のCDやレコードよりも高いことを意味している。また,芸術作品における素材としての音楽は,3DCGや映像に欠かせない存在であり,需要は大きく,BGM,効果音,ジングル,主題歌など様々な形で利用されている。
また,MIDI規格に基づくデジタル機器による楽曲制作が一般的になってきている。MIDIシーケンスは楽譜情報であり,コンピュータのプログラムにおけるソースコードに相当する。音楽作成者は,MIDIシーケンスを通して,各パート構成,楽器の演奏情報など,楽曲の詳細を解析することができ,コンテンツの改変,再利用に大きな役割を果たすため,オープンソースという観点からも利用価値が高い。
図2の左図は,MIDIシーケンスの例であり,1小節目の1,2,3拍目に四分音符で強さはメゾ・フォルテで「ド・レ・ミ」と演奏することを表わしている。この演奏情報に基づいて音源が発音し,音声の実体である波形が生成される。
ネットワーク配信という観点からも音楽コンテンツは有利である。MIDIファイルの容量は小さく,数キロバイト程度である。オーディオファイルも圧縮技術が進歩しており,1分の楽曲で1メガバイト未満であり,現在のネットワークの能力で十分対応できる容量である。
現段階で,実際に準備しているコンテンツの種類は以下の表の通りである。
種類 |
時間 |
データ型式 |
特徴 |
ジングル |
数秒程度 |
MIDI,MP3 |
効果音,SE,サウンドロゴとして使用 |
ループ曲 |
1〜2分 |
MIDI,MP3 |
無限ループとして使用 |
着メロ |
1〜2分 |
機種毎の型式 |
携帯電話で使用 |
リミックス |
1〜5分 |
MIDI,MP3 |
クラシック,民謡など著作権フリーの音楽のリミックス |
オリジナル楽曲 |
1〜5分 |
MIDI,MP3 |
1曲として成り立つオリジナル楽曲 |
生演奏楽曲 |
1〜5分 |
MP3 |
オーディオ録音による楽曲 |
オーダーメイド楽曲 |
任意 |
MIDI,MP3 |
Webサイトで利用者の注文を受け付け,要望に応じたオリジナル楽曲を作成。 納期は1〜2週間。 料金は原則的に無償。 |
現在のコンテンツは,MNGプロジェクトのメンバーが作成したものと東京工芸大学芸術学部メディアアート表現学科のサウンド系演習科目において学生が作成したものから構成される[23]) [24])。オーダーメイドの楽曲はMNGのメンバーによって作成される。利用者は,Web上に掲載されている楽曲を視聴して,著作者の作品の品質や特性を判断し,オーダーすることができる。将来的には,インターネットを通して,一般者がコンテンツ作成者として自主的に参加し,作品を提供することも可能にする。
MNGプロジェクトにおけるコンテンツ発信は始まったばかりであるが,需要は確実にあるようである。オーダーメイド楽曲も学内からの発注が出始めている。Webサイトに検索エンジン最適化[25])を実行して,外部からのアクセスアップを図っている。また,将来的には音楽以外のあらゆる種類の著作物を扱う予定である。
4−2 MNGにおけるライセンス
MNGで提供するコンテンツはすべてフリー(自由)である。具体的には以下の自由を利用者に保障している。
0) 視聴・鑑賞の自由
1) 複製,頒布の自由 ただし,コピーレフトを条件とする。
2) 改変の自由
3) 改変した作品の複製,頒布の自由 ただし,コピーレフトを条件とする。
4) 組込みの自由
5) 組込んだ作品の複製,頒布の自由 ただし,コピーレフトは条件としない。
音楽作品の場合,コンテンツの改変として考えられるのは,リミックス,アレンジ,サンプリング,エフェクト加工,波形処理などであるが,この改変物には,コピーレフトを適用し,同じ条件で再配布することを求める。一方,音楽作品の組込み物としては,映画やCGなどの映像が考えられるが,著作物として,主たる著作者はその映像の著作者であると考えられるため,組込み物の著作者が,自由にライセンスを設定できる。この点で,プログラムのライブラリに適用されるLGPLに準じている。
営利目的利用や価格の設定は,利用者が自由に行なえるが,コピーレフトの原則は有効であるため,利用者のコンテンツの使用,複製,改変,頒布の自由が保障されている。
その他の利用条件は以下の通りである。
6) いずれの場合もオリジナル著作者名の表示は義務付ける。
7) 公序良俗に反する目的で使用することを禁じる。
8) 著作物の使用において生じた損害に関して,直接か間接かを問わず,通常損害か特別損害かを問わず,必然的か偶発的かを問わず,いかなる利益の損失やいかなる損害に対しても,一切責任を負わない。
GPLには損害に対する法的責任に関する概念は存在しない。従ってGPLのソフトウェアで発生した損害に対して,法的に責任を問える相手が事実上存在しないことになる[26])。そこでMNGでは免責事項を設定している
4−3 MNGのシステム構成
システム構成は以下の通り。いずれもオープンソースのフリーソフトウェアを使用してシステムを構築している。
URL |
http://www.media.t-kougei.ac.jp/mng/ |
オペレーティングシステム |
Linux |
Webサーバ |
Apache |
スクリプト言語 |
PHP |
データベース |
MySQL |
Webブラウザから,著作物と著作者のキーワード検索,登録,一覧表示,カテゴリ分類が可能なWebデータベースシステムである。また,ダウンロードカウンタによる利用状況把握,アクセスログ解析,電子掲示板・会議室による情報交換,オーダーメイド受付などを可能にしている。システム構成図を図3に示す。
5.音楽コンテンツの配信の実際
現在の日本における音楽配信と著作権管理は,著作権者(作詞・作曲者,音楽出版者)と代理機関が著作権信託契約を結び,代理機関が委託者に代わって著作物の利用者に使用を許諾して使用料を受けとり,管理手数料を徴収した後に,委託者に分配する形を取っている。代理機関として指定著作権等管理事業者である(社)日本音楽著作権協会JASRAC(1939年11月設立http://www.jasrac.or.jp/network/)がほぼ独占的に管理している。JASRACは原則として全ての著作権を管理するが,一部の権利を権利者が自己管理したり,他の著作権管理会社に権利を預けたりするなどの選択が可能となっている。なお2001年10月の著作権等管理事業法の施行に伴い,著作権管理事業者として登録された会社は以下の通り。
(株)ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC) 2000年12月設立
http://www.japanrights.com/index.html
(株)イーライセンス 2000年10月設立
http://www.elicense.co.jp/
(株)ダイキサウンド1999年6月設立
http://www.daiki-sound.jp/japan/Top/Index.htm
しかし,管理業務の独占は依然として続いているのが現状である。作曲家の坂本龍一は,音楽著作権管理業務の独占は,「作品の利用条件や対価を自らの意思によって決定する著作者の自由を完全に奪ってしまう」[27])と指摘している。一方,MNGでは著作権を自己管理することに相当するが,音楽著作者が自己管理をしている例は少数であり,著作者の著作権に関する意識の向上が望まれる。
6.結論と展望
グーテンベルグの活版印刷によって人類に知の共有が可能となり,近代文明の幕開けとなった。デジタル技術とネットワークによる情報化時代は,知の共有の新しい可能性を秘めており,人類の新たな発展に貢献することが期待される。しかし,人間の創作活動の成果である著作物が関係すると,著作権の問題は避けて通れない。著作権は作者の権利を保護すると同時に,公衆にも益となる仕方で扱われる必要がある。現在は,デジタル技術とネットワークによって,多くの人が作者であり,利用者でもある時代である。このことは,著作権は全ての人の権利であり,著作物の独占利用を避け,自由を保障する必要性を意味している。
著作権についての言及は,不正コピーや海賊版といった権利を行使する側の話題が多いのが現状である。しかし,著作権の過度な行使は,著作物の自由や共有を利用者から奪うことになり,社会にとって損失である。MNGプロジェクトによって,著作物に対する権利,自由,ライセンスに対する正しい認識が啓蒙され,コンテンツの発信や共有によって創作活動の活性化を促進することができれば幸いである。
参考文献
[1]) GNU's Not Unix! http://www.gnu.org/
[2]) Disney International Sites http://www.disneyinternational.com/
[3]) Richard Stallman "Science must ‘push copyright aside’"
http://www.nature.com/nature/debates/e-access/Articles/stallman.html
[4]) Richard Stallman「自由か著作権か?」
http://www.gnu.org/philosophy/freedom-or-copyright.ja.html
[5]) The Public Library of Science (PLoS) http://www.publiclibraryofscience.org/
[6]) 青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/
[7]) Open Source Initiative http://www.opensource.org/
[8]) GNU General Public License http://www.gnu.org/licenses/gpl.html
[9]) GNU Lesser General Public License http://www.gnu.org/copyleft/lesser.html
[10]) FreeBSD http://www.freebsd.org/
[11]) NPL Netscape Public License http://www.mozilla.org/MPL/NPL-1.1.html
[12]) MPL Mozilla Public License http://www.mozilla.org/MPL/MPL-1.1.html
[13]) OpenOffice.org http://www.openoffice.org/
[14]) SISSL Sun Industry Standards Source License
http://ja.openoffice.org/sissl_ja_01.html
[15]) Apache License
http://www.apache.org/licenses/
[16]) Artistic License http://www.perl.com/pub/a/language/misc/Artistic.html
[17]) PHP License http://www.php.net/license/
[18]) MySQL The World's Most Popular Open Source Database http://www.mysql.com/
[19]) 先田千映,白田秀彰,神崎正英「クリエイティブ・コモンズとは」iNTERNET magazine 2003年4月号http://internet.impress.co.jp/im/pdf/cc.pdf
[20]) ローレンス・レッシグ「コモンズ」,翔泳社,2002
[21]) Napster http://www.napster.com/
[22]) Gnutella http://www.gnutella.com/
[23]) 久原泰雄 「パーソナルコンピュータを使用した楽曲作成教育の試み」,昭和音楽大学研究紀要,第19号,2000,pp95-115
[24]) 久原泰雄 「デジタルコンテンツとインターネットによる音楽作成演習プロジェクトの実験」,東京工芸大学芸術学部紀要 芸術世界,第9号,2003,pp25-32
[25]) 住太陽ほか, 「アクセスアップのためのSEOロボット型検索エンジン最適化」エーアイ出版, 2002, http://www.searchengineoptimization.jp/index.html
[26]) Gerald Spindler, "Rechtsfragen der Open Source Software",
http://www.vsi.de/inhalte/aktuell/studie_final.pdf
[27]) 坂本龍一 "A nous, la Liberté ! "
http://www.kab.com/liberte/index.html